女子高生の朝 - 新幹線ものがたり1

女子高生の朝は早い。 

駅までの道のり、通勤のついでに車に乗せてくれる父親が自分の無理をきいてくれると知っていて、わたしはいつもギリギリに支度を終える。

そのせいで高校時代は父をかなりヒヤヒヤさせてしまった。


冬の朝など、昇り始めたばかりの太陽に向かって車を走らせ、逆光で信号が見えなくなったのも、今となっては懐かしい。 


朝の新幹線は通勤客がほとんどで、うまく席取りをしないと座れないこともある。まずは号車選択が重要だ。


のぼりで17両編成なら、上野駅に着いた時に4号車か6号車だと階段が近い。 

高校1年生の頃はいかに歩く量を減らして乗れるかということばかり考えていたため、6号車のレーンに並んだものだったが、大学生になってからは4号車と6号車は混むからよそにしようと思うようになった。


平日の朝の新幹線に乗ったのは高校に入学するときが初めてで、わたしはその静けさに初めのうちは圧倒されたものだった。 

特に7時台前半の列車は、誰ひとりとして口をきかない。ほとんどの人が寝ているのだ。せいぜい2・3割の人がパソコンや携帯、読書ないしは新聞を読んでいる。


新幹線に乗った瞬間寝て、駅に着くギリギリに起きて、降車したらすぐに階段がある出口を目指して並んで、降りてからも早足に乗り換えて…… こんなに必死で寝て、何が楽しいんだろう、どうしてこの人たちはここまで無理して通っているんだろう、と、異様な静寂には恐怖すら覚えた。


しかしわたしもだんだんと違和感を覚えなくなる、なぜなら自分も寝るようになったからだ。

4月のうちは真面目に読書や勉強をしてみたもののすぐに気づいた、朝日を浴びる新幹線の中で作業をするのは苦しいことだと。


窓ガラスを電柱や高架線の影が超高速で流れていく様は、いくらブラインドを下ろしても目をチカチカさせた。特急列車という密室は酸素すら置いてきているかのように空気が薄く感じられた。 

そんな環境を数十分間生き抜くには、視界と意識をシャットアウトするのが一番楽なのである。


しかし、寝過ごす危険とはいつも隣り合わせだ。

わたしが降りる上野駅は、新幹線ホームが地下4階にあるため、いつだって暗い。特に駅に滑り込む直前はトンネルで真っ暗だからつい寝心地も良く……明るいなと思って目を開けて、車窓に秋葉原の電気街が写っていたら、すでに寝過ごしている。


そんな時は、電気屋さんのカラフルな看板に絶望するし、旅人でなんとなく浮き足立つ東京駅新幹線ホームで、寄り道もなしに折り返すのはなんとも惨めだ。 

このまま東海道新幹線に乗って京都に行ってしまおうか、あるいは、仙台までノンストップの新幹線に乗ってまた上野を通り越してしまおうか……思うだけで、実行したことはない。


とはいえ、実は寝過ごすくらいぐっすり寝るのにもコツがいる。

シートによっては頭のセッティングが難しい。それで首が凝ったことも多々ある。私は毎日簡単に頭痛になった。

最近の新車両は枕が付いたのでかなり寝心地が良いが、わたしがいまのところ一番快適に思うのは、自分のシートだけリクライニングして隣のシートの脇にもたれかかる体勢だ。


ただし隣の席が空いている時に限る。

または、例え隣が空いていても、隣の隣に座った若いイケメンサラリーマンが、自分の背もたれとの段差を不快に思って空席をもリクライニングしたせいで、もたれて寝ていた人がバランスを崩し、気まずくなることもある。

実話だ。 寝ぼけた顔を見られたのは、赤の他人とはいえ、そこそこ恥ずかしかった。 


ちなみに自分の隣の空席をリクライニングしない方が、常連客ではマイノリティだ。


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