リレーコラム第6周『旅あれこれ』


旅あれこれ

旅というのはエピソードがつきものだ。8月に、フランスはパリ・シャルルドゴール空港を経由してイギリスに行った。目的地に着いてしまえば英語だから、と安心していたものの…いや英語が堪能なわけではない。マシなのだ。いずれ堪能になりたいと思っている。…なんせパリである。フランス語万歳である。乗り換え大丈夫かしらと、どきどきしながら成田空港へ向かった。

チェックインしてびっくり。オーバーセールスゆえ、運良くエコノミーがプレミアム・エコノミーにグレードアップした。エコノミーを売りすぎたから空きのあるプレミアム・エコノミーへ。えぇえぇ、喜んで移りますとも。そんな勇み足はつかの間、乗ってみればプレミアム・エコノミーの担当アテンダントはフランス人女性だった。


語学あれこれ仏語篇

Oh,no! である。日本人アテンダントだって3人乗っているのに、よりによって…… いや、せめてあちらのイギリス紳士風のアテンダントさんがよかった、とか何とか言っている暇はない、お茶の時間だ。いやいや、自分落ち着け。これは日頃の勉強を生かすチャンスではないか。フランス語選択2年目。今だに動詞の活用が怪しいけれど、きっと簡単な会話なら……! 

「Madame , 」

わたしの番が来た。

「du thé ou du café?」

教科書の例文と一緒だ、紅茶かコーヒーかでしょ? よし……

「Tea , please . 」

自分ーーー! なぜ英語で答えた? なぜ?? お姉さん、ぽかんとしちゃったじゃない。もしや英語の発音すらまともでないんじゃないの自分。わたしは焦った。

「Thé , thé , thé!!!」

半端にフランス語で答える。片言未満のフランス語をお姉さんはちょっと怖い顔で受け取って、紅茶を出してくれた。予定だと、Du thé , s'il vous plaît . だったのに、と少々がっかりしながら紅茶をすする。

数時間後、機内食を同じお姉さんが配りに来たが、わたしは後ろから来た英国人風男性アテンダントさんが英語で話しかけてくれたおかげで、フランス料理をくださいと落ち着いて言えたのだった。お兄さんだってフランス人だったのかもしれないけれど、ここだけの話、……お姉さんは少し怖かった。


新幹線 vs 飛行機

わたしはわりと乗り物好きだ。新幹線が1番好きかもしれない。でも飛行機も好きだ。そういえば新幹線と飛行機、頭の形がどことなく似ている。空港に着いて飛行機がたくさん見えるとテンションが上がる。だから国際線の長いフライトも苦ではない。わりとワクワクして乗るたちだが、これは両親もそうなので完全に遺伝だろう。

数年前に読んだ新聞記事に、見出しのようなタイトルがあった。国内の移動において、新幹線と飛行機は利便性を争っているという。特に近年は新幹線の新設ラッシュで、九州新幹線や新青森駅に続き数年後には金沢新幹線が開通予定。青函トンネルも新幹線対応がすでにできているそうだ。飛行機は実際に乗っている時間は短くても、その前後で意外に時間がかかる。そうした飛行機の移動に必要なすべての時間を合わせると新幹線も案外負けていない、となるわけだ。

とはいえ飛行機にも絶対的な利点はある。ここで国内移動と国際線を比較するのは筋違いだが、長時間フライトで映画を見られるのは楽しい。普段映画館に行きそびれることが多いので、見たい映画があった時はほくほくした気持ちになる。 

今回飛行機の中で『25年目の四重奏団』という映画を見た。弦楽器の先生方何人もがおすすめしているので気になっていたのだが、運良く機内のメニューにあったのだ。弦楽四重奏だけにある、あの何とも言えない空気感。これを映画にした功績は大きいと思った。弦楽器奏者にとってカルテットが難しいというのは当たり前のことだけれど、それは狭いコミュニティ内での常識であり、世間一般には知られていない。そうしたことを伝えることができるツールが映画なんだな、と思った。おそらく文学もそうだろう。

またそれぞれの役者さんがすばらしい。カルテットの中での役割と音楽以前のその人の人格に境目が無くなっている様。自分の存在意義や人生について問う登場人物たちには胸がつまされる。彼らは自分が背負うものに一度は抗いつつも向き合って、共存の道を見出していく。

鑑賞後、見られてよかったとほっとした一方、行きのプレミアムエコノミーで見た方が絶対画面も音声も良かったと悔やみながらの、ただのエコノミーな帰り道だった。残念ながら飛行機のエンジン音でカルテットの演奏シーンがあまりよく聞こえなかったし、再び見たいという気持ちもあるので、ぜひ改めて劇場でこの映画を見たいと思った。あれ、もう終わってしまっただろうか……


語学あれこれ英語篇

帰国してからのことである。ついに寝言で英語を発した。嘘ではない。母が聞いていた。2週間の英語滞在の賜物! 万歳! しかし素直にそうも思えなかったのは、内容にずっこけたからだ。自分の声で目覚めたから内容ははっきり覚えている。

「I don't brash my teeth yet.」

今となってみると、現在完了系を使うべきだったなんて思うのだが、寝言につきお見逃しを。

普段友人から、はらだまほと言えば歯磨きと言われるくらいには歯磨きに重きを置いている。講習会で友人と一緒に宿泊して、彼女が眠すぎて歯磨きすることを諦めた時に、同じくらい眠かったにも関わらずわたしは頭をぐらんぐらん揺らしてでも歯磨きしていたのだが、それがよほど印象的だったらしい。その数日後、わたしが行き倒れていた日、彼女はわたしに「歯磨きはした?」と声をかけて心配してくれたものだ。

そんなわたしらしい寝言だった。寝言を信じて起き上がって、洗面所まで行った。そこに来て、歯磨きはしたのだったと思い出し、再び眠りについた真夏の深夜1時。


ーWebアッコルド「音楽 × 私」より 2013年11月27日掲載


リレーコラム共通質問

Q.自分にご褒美をあげるとしたら何を?

A.ほしいもの……普段はたくさんあるのに、いざじっくり考えると思い浮かばないのはなぜでしょう…。そうだ沖縄往復航空券が手に入ったら飛び跳ねます! いやいっそ片道にしましょうか……嘘です笑