リレーコラム第9周『記憶の路線図 特急追憶線』

記憶の路線図

特急追憶線 電車を使う人なら、誰しも駅の思い出というのがあるだろう。何か思い入れのある駅は、あとになって別の用事で行っても、その時の気持ちを思い起こさせる。それはよい思い出ばかりとも限らないが、駅には、そうした人々の想いが詰まっているのではないだろうか。今回は、現在と並行して走るわたしの追憶列車の停車駅を、いくつかご紹介したいと思う。


上野

藝大へ行くには、JRなら上野、鶯谷、日暮里駅、東京メトロ千代田線根津駅、京成日暮里駅から徒歩約10分、東京メトロ銀座線・日比谷線、京成上野駅から徒歩約15分。わたしは毎日上野から行く。藝高に入るまでは上野をずっと憧れの地として、藝大のホール・奏楽堂や駅前の東京文化会館に、コンサートを聞きに来たりしていた。今では上野駅の仕組みはかなりマスターしている。同級生にすら驚かれるくらいには詳しい。何が言いたいって、わたしは上野が好きだ。

上野駅を利用されると、たまに、駅構内を忍者のように抜けていく人の姿を見かけることがあるかもしれない。それはわたしである。……必死なんです。わたしが使う電車、1時間に1本しかないので。汗 最近はあまり走らなくなりましたけど(※ようやく時間の計算ができるようになった)。


東京

東京駅は旅を予感させる駅だ。小学校の修学旅行で鎌倉に行った時、東京駅から横須賀線に乗った。横須賀線が遅延して時間ができたので、せっかくだから赤レンガのドームを見ようという話になり改札を出たものの、付近は激しく工事していて、景観はあまり良くなかった。今あの完成した赤レンガの駅舎を見ると、その日のことを思い出す。

関西に行く時は東京駅から新幹線。初めて東海道新幹線に乗ったのはやはり修学旅行で、中学・高校どちらも京都へ行った。高校の時は東京駅の団体待合所(行きづらい、わかりにくいところ)集合だったので、事前に予習に行った。銀の鈴が、イルカの金工作品でおなじみの藝大学長の作品だったので驚いた。学長はスピーチの名手と言われていて、いつも入学式・卒業式で名演説をする。また、学内をふらっと自転車に乗って移動している姿がとってもチャーミングだ。

東京駅に“非日常への入り口”というイメージを持つ一方、電車に落し物・忘れ物をした時に、八重洲北口からうんと歩いたところ、東京駅の隅っこにある東京駅お忘れ物承り所に探しに行くことがごくたまにある……(※これまでに3回ほど行った)


渋谷

藝高では3年に1度、全校生徒でNHKホールにオペラを見に行く。在学中に必ず1回行ける計算だ。わたしは1年生の時に、ミラノ・スカラ座、バレンボイム指揮でヴェルディの『アイーダ』を見た。制服ではなく、その日だけは私服で登校することが許され、みんなでドレッシーにおめかしして、電車に乗って渋谷か原宿で降りて、わいわい言いながら行ったのがすごく楽しかった。

また、大学入試のセンター試験の会場が渋谷だった。すごく緊張したけれど、後から思うとそれすらなんだか楽しんでいたように思う。リスニングの機械で不具合が起こらなくてよかった、なんて言いつつ、みんなでお互いを労いながら帰った寒い夕方も少し懐かしい。次は渋谷に遊びに行こう、と友達と言っていたのに、その企画は未だ実現していない。

去年の春には、大学の友人と大好きなドラマ『相棒』のスピンオフ映画の舞台挨拶に渋谷バルト9へ。生で観る川原和久さんと田中圭さんのかっこいいこと、かっこいいこと。その頃ちょうど渋谷駅が新しい構造になったため、探険する気持ちで乗り換えをした。


水戸

茨城県は水戸。行政は文化への理解があり、良い演奏会や展覧会がいろいろ開かれている街だ。小学生の頃、ゲルギエフ×マリンスキー管弦楽団を聞きに、母と2人ローカル線に乗って行った。今となっては聞けないであろう、ゲルギエフのブルックナー4番にアンコールはワーグナーのローエングリン。当時のわたしはまだブルックナーの良さがいまいちピンと来ていなかったが、よくわからないなりにも、すごい音楽体験だったのはわかった。

そのあとも2度ほど赴いたが、しばらく遠のいているうちに、震災が起き、水戸も被害が大きいと聞いて胸が痛んだ。水戸市民会館は建て替えが必要で、未だオープンできずにいるようだ。東北各地もさることながら、北関東の町々のホールで、甚大な被害を受け、今も再開に向けて困難に立ち向かっているところは少なくない。


新大阪

初めての大阪は高校2年生の時だが、関東平野に生まれ育ったわたしには異国に感じられた。2回目に行った時はそんなことは思わなかったが、本当に初めての時は外国に旅行に来た気持ちになった。

1度目は父と親戚を訪ねに行った。いいなぁ、わたしも「のぞみ」乗りたいなぁ、と言った母と、奇しくもその半年後、一緒にのぞみに乗って関西へ行くことになった。そんな旅の帰り、おみやげにかねてから念願だった「面白い恋人」を買った。新幹線の時間が迫る中で、新大阪駅のお土産屋さんを母と二手にわかれてうろうろした、ぎりぎり親子の緊迫感ある乗り換え史上5本の指に入るおみやげ選びだった。


幸福駅

今は電車が通っていない駅……北海道に行った時に、近くを通りかかってふと寄ることができた。小さな木造の駅舎と電車が1両あって、特にどう、というわけでもないのだが、ウワサの幸福駅、この目で見てみたいという思いはあった。本当に、真面目に「幸福駅」と書いてあるのだから、おもしろい。1番近いエアポート・とかち帯広空港には、幸福駅関連のグッズがたくさん売っていた。


両国・錦糸町

先日「伊福部昭百年紀」というコンサートで、「オーケストラ・トリプティーク」に乗せていただいた。演奏会が錦糸町からすぐのすみだトリフォニーホールであったので総武線に乗ったのだが、錦糸町のひとつ手前・両国駅から両国国技館と江戸東京博物館が見えた時、ばっと小学生の時の記憶が呼び起こされた。社会科見学で国会議事堂の後に行った江戸東京博物館! 上野からこんなに近いとわかっていなかった。開催中の大浮世絵展を見に行きたい。伊福部昭百年紀は大変大迫力で感動的な本番だったので、錦糸町もわたしの記憶の路線図に載ることになるだろう。


初台

前述のオーケストラ・トリプティークの練習は初台のオペラシティのリハーサル室で行われた。3日間リハーサルを行ったが、NHKの取材が入り、伊福部昭作曲の映画『ゴジラ』の音楽を練習している模様が、夜9時からの「ニュースウォッチ9」で放送された。わたしはヴァイオリン隊の1人として画面の片隅に映っただけだが、テレビに少しでも映ること自体初めてなので、家族でニュースウォッチしてしまった。

その昔オペラシティに聞きに行った、桐朋の先生方によるガラ・コンサートがとても印象に残っているし、昨年6月のアンネ・ゾフィー・ムターの世界初のトークつきコンサートもすばらしかったので印象深い。わたしの現代音楽の入り口となったルトスワフスキのパルティータを、ムターはカラヤン譲りの息の長いフレーズで歌い上げた。その音楽になんだかすごく納得させられて、また勉強したいことがたくさん見つかった。

しかし初台へ行くには新宿を通らなければいけない。


新宿

何かと苦手な駅だ。レッスンでうまくいかなかった時や、コンクールで落ちた時乗り換えに新宿を使うことが何度かあり、嫌な思い出がよみがえるせいで新宿駅が大嫌いだった。マイ鬼門。でも冷静に考えてみれば、自分にとってとりわけ苦い記憶が偶然新宿駅に重なっているだけで、いい思い出ができた日の乗り換えにだって使っているはずである。

最近は少しずつ新宿を克服していて、まだ駅の構造が把握しきれず、毎回標示にしがみつくようにして歩いているものの、乗り換えも覚えてきたし(※東京通い5年生なので多めに見てください)、新宿駅経由の楽しい思い出も増えてきた。先日、学内の室内楽試験を終えた後に、室内楽メンバーと新宿で打ち上げランチをしたおかげもあって、なんだか好きになってきた気がする。


大崎

さて、そんな室内楽メンバー結成の街が大崎だ。およそ1年前。2年生から自分たちでチームを作って室内楽の単位を履修していくシステムに伴い、わたしは同級生の2人とテルツェットを組んだ。ヴァイオリン2本、ヴィオラ1本の弦楽三重奏である。

4月からグループを組むにあたって、その前に親睦を深めようと、3月に3人で遊びに行った。大崎駅に集合してビュッフェ・ランチを食べて、そのあとお台場のトリック・アート美術館と屋内遊園地ジョイ・ポリスに行った。初めて見たフジテレビに歓声を上げて写真を撮ったっけ(完全なるお上りさん)。

ランチを食べたレストランで福引きの抽選券をもらったため、ためしにガラポン抽選会に参加したところ、定番のポケットティッシュが当たったのも、よい思い出だ。


大手町(宣伝)

というわけでまもなく結成1周年になるテルツェット《Mina》で、演奏会を開きます。グループ名はミーナと読みますが、これはスリランカのシンハラ語で宝石、アイヌ語で笑うという意味を持つ言葉です。語感の良さと、メンバーそれぞれが宝石のようでありたいという思いと、合わせの時にわたしたちはいつも笑っている(※誰か…主にわたしが、おかしなことを言うせい)ことからミーナと名付けました。

前半はピアノの方をお招きしてそれぞれのソロ、後半は今年度学んだテルツェット3曲より抜粋したものを演奏いたします。

Terzetto “Mina” 1st Concert 〜絵のある空間〜

出演:大澤愛衣子・原田真帆(vn)、森朱理(va)、石川優歌(Guest・pf)

会場:パソナグループ本部地下1階ホール

日時:2014年3月7日(金)19:00開演 18:30開場

全席自由 一般2000円/パソナスタッフ1500円

ご来場いただけますと幸いです。

ちなみにミーナは、スペイン語で鉱山という意味もあるらしいのですが、わたしの名前マホは、スペイン語で「伊達男」という意味らしいです。男か。

次回のわたしのコラムで、藝大の同級生である大澤愛衣子さん、森朱理さん、石川優歌さんのご紹介をしたいと思います。


ーWebアッコルド「音楽 × 私」より 2014年2月5日掲載


リレーコラム共通質問

Q.チョコレートは好き?

A.チョコレートは好きですね。板チョコ系よりは、生チョコ系かチョコレート味のしっとりお菓子、例えばチョコレートケーキやチョコレートマフィンなどが好きです。ハーゲンダッツの冬季限定チョコレートブラウニーがタイプです。