リレーコラム番外編『情熱列島』

情熱列島

今回取材班は、現在東京藝大2年生の3人による「テルツェット≪Mina≫(ミーナ)」から、ヴァイオリンの大澤愛衣子とヴィオラの森朱理、そして来月のミーナのコンサートでピアニストをつとめる石川優歌に取材した。

……とか言って、他人のふりして自分の仲間たちのご紹介なんですけれど。TV『情熱大陸』風に書いたのでどうぞ脳内再生はナレーターの窪田等さんの声でお願いします(笑)。


テルツェットというのはヴァイオリン2本とヴィオラ1本の三重奏のことで、いわば弦楽四重奏からチェロを抜いた形だ。あまり有名な形態ではない上に、そもそもこの編成のための曲は少ない。名曲が多く残されている弦楽四重奏ではなく、あえてテルツェットを選んだ彼女たちに迫った。

ヴァイオリンの大澤愛衣子は名古屋の菊里高校音楽科の出身。通称はめいちゃんで、見た目はふんわりおっとりだが、四人兄弟の1番上、兄弟思いのしっかり者だ。

無理を感じさせない自然なボウイングで歌い、楚々とした音楽を奏でる彼女の素顔は、アイスクリームを愛してやまない乙女である。

「冬の日に、(暖房の効いた)部屋で温かい格好をして食べるアイスクリームがたまらないんです。アイスを食べて、ちょっと寒くなるのも、いいんです。」

おいしいものを食べる時、彼女は本当に幸せそうな顔をする。その笑顔は、周りの人間をも幸せな気持ちにさせるほどだ。

また彼女はオレンジと黄緑の2色を溺愛している。

「部屋を見渡してみても、オレンジと黄緑の割合が…多いですねぇ。」 

ビビッドな黄緑色のキャリーケースは、9歳の頃から愛用している。購入する際、両親はその色を選ぶのかと驚いたそうだが、一目惚れの魔法は今も効いている。


他の2人のことを聞いた。

「まほちゃんもあかりちゃんも第一印象と今の印象全然違って。 最初はまほちゃんはちょっと怖く見えたし、あかりちゃんもすごく大人かと思っていたけれど、ふたりとも付き合ってみると意外にお茶目だったり、優しいって思うし。」 

学校が休みの間も学生が自主運営するオケの練習などで忙しくしている彼女に、好きな余暇の過ごし方を聞くと、映画鑑賞と返ってきた。 

「最近見たのは『ドット、ジ、アイ』ですね。意外性のあるストーリーが好きで、これはレンタル屋で『この結末は誰にも話さないでください』て書いてあったんで借りたんですけど、予想以上の展開でした。ちょっと過激でしたけど。」

大澤流、萌える曲は。

「チェロアンサンブルの曲でクレンゲルの『讃歌』が好きです。讃歌というだけあって全体に祈りのような雰囲気があるんですが、12本のチェロが1本ずつ弾き始めて段々高揚してきて、盛り上がったところで主旋律の伴奏にピッツィカート(指で弦をはじく奏法)でアルペジオ(分散和音)が出てくるんです。このピッツィカートが…萌えます。」 


渡辺麻友と柏木由紀を足して2で割ったような、「アイドル系きれいなお姉さん」もりのあかりんごこと森朱理は、ややこしい経歴を持つ。

東京都立西高校を経て、東京藝大楽理科を卒業、3年会社員として 企業に勤めた後、一大決心をし器楽科弦楽専攻ヴィオラで藝大に再入学。ここで大澤愛衣子や原田真帆と同級生になったものの、今度は器楽科を飛び出て、この4月から藝大大学院室内楽科修士課程に飛び入学する。 

室内楽科への抱負を訊ねると室内楽への思いを語ってくれた。

「ありきたりだけど、アンサンブルを極めたいですねー。」

もともと室内楽を真剣にやりたいという思いがあった。器楽科1年目の授業で、大澤愛衣子の演奏を聴いて惚れた。藝大では2年次から自分たちでグループを組むことができる。どうにか彼女と室内楽をできないだろうか。まずは親睦を深めようと、ケーキ屋さんに誘ったりしてアタックした。そのうち、大澤も室内楽をやりたい気持ちがあることを知る。 

ヴァイオリンはもうひとり誰にしよう。そこで、演奏にアクがないタイプの原田真帆が候補に上がった。カルテットの道を模索したが、結局、無理矢理チェロを探してカルテットをするよりも、曲は少ないが信頼できるメンバーとテルツェットをすることを選んだ。室内楽においては、何よりお互いの信頼関係が大切だ。

「めいちゃんは癒し系のデキ女(仕事のできる女)ですね。まほちゃんは頼れるデキ女だけど、たまに守りたくなる感じ(笑)。」

学生生活以外にもカルテット玉響の活動など普段から多忙な彼女の日々の楽しみは何だろうか。

「癒しはですねー、おやつです。朝起きてまずおやつを食べるんですが、今日のおやつ何かなって、それが楽しみでいつもすっきり起きられます。」


好きな演奏スタイルを聞いた。

「きれい系の演奏が好きなんですけど、でも好きな演奏家は結構情熱的な人が多いんですよね。バシュメットの演奏を聴いた時、柔らかい音がすばらしくて。音量がすごいわけではないのに、空気を振動させているような。まるで何かに魔法がかかるを見ているようでした。あと、タメスティも好きです。」

ヴィオラ奏者としての憧れは。

「今習っている市坪先生の無駄のないボウイングですとか、あと刻み。先生は室内楽の伴奏パートなんかを本当に楽しそうに弾くんです。あれはヴィオラ奏者としては本当に理想です。」 


石川優歌はオルガン専攻の学生だが、ピアノに熱い思いがある。

「好きなのは、ドビュッシーのピアノの響き。オルガンでもピアノの音のような少し硬くて多彩な音が出る楽器が好きです。好きな作曲家を思い浮かべると、オルガン曲を書いてない人ばかりで(笑)。」

小さい頃からピアノを学んでいた。中学生の頃、オルガンを弾いていた親の影響で自分もオルガンに触るようになり、気がついたら生活に占めるピアノとオルガンの割合が逆転していた。 

「オルガンは1番古くからある楽器だから、古楽器?と訊かれることも多いけれど、古くもあり、でもまだまだ可能性を秘めた、発展の余地がある常に新しい楽器でもあると思うんです。」

一般的にはなかなか馴染みのないオルガン。その見どころは。

「オルガンはとにかく大きい、もはや建築物なので。建物がないと成り立たないけれど、わたしは逆にそこに良さがあると思います。空間の感じというか。

オルガンの演奏を聴く機会があったら、まずは足、それからぜひアシスタントさんにも注目してほしいです。オルガンには足鍵盤がありますけど、これはピアノにはないものですし、足で音量も調節しています。それからアシスタントさんは、ただ譜めくりをしているだけではなくて、ストップを変える役割があります。ストップの組み合わせを記憶できないタイプの楽器だとアシスタントさんが2人必要なこともあります。曲によってはかなりアクロバティックに動いていたり。」 

オルガンは1人オーケストラとたとえられる。発音体である、空気を送る管(パイプ)を選ぶことでありとあらゆる音色を出せる。ストップと呼ばれる、鳴らすパイプを指定する装置にはすべて名前があり、基本のプリンシパルから、フルート、オーボエ、チェロなどと具体的な楽器の名前がついているものまで、その数は平均で50に及ぶ。

「もちろんオルガンは好きですが、わたしはピアノも好きなので、今回伴奏のお話をいただいた時は本当に嬉しくて高まりました。」


オルガン科から見ると、弦楽器はどのように映るのだろうか。

「弾いてる姿がとにかくかっこいい。でも普段同級生と話していると、おもしろい人が多いです。いい意味でビッグバンを起こしてるみたいな(笑)。」

楽器を持ち運ばない鍵盤楽器専攻の学生としては、チェロやコントラバスは運搬が大変そうだなと思うものの、ヴァイオリンケースを持って通学するのは、いかにも音大生という感じがして憧れるという。

小柄な体で大きな楽器を扱う姿はかっこいい。オルガンを演奏している石川の背中は、強い意志が感じられる。しかし楽器から離れれば、お酒とカフェインが好きな女子大生だ。

「好きなものはお酒…ですね。わりとなんでも飲みます。お酒の席だったら、一緒に飲む人の好きなものを教えてもらったり。お酒を飲んでいろんなことを話せる、あの雰囲気が好きで。家でひとりでも飲んだり、とにかくお酒は日常です。

あとコーヒー。基本的にはロースト派でブラック。お酒もコーヒーも、何も混ぜないストレートが好きで。甘い飲み物はあまり求めないというか。なので甘いお酒は飲みません。

それからチョコが好きかなぁ…チョコそのものが好きなので板チョコみたいなの食べてますね。」

また、目の保養はピアニストだと言う。

「なんせピアノが好きなので、外国人の男性ピアニストの演奏会に行くと、その姿に魅せられます。優雅だなって。曲に入り込む感じがかっこいい。」


演奏会の意気込みを3人それぞれに訊いた。

大澤「トーク、ですかね。トークで(Minaの)3人のほんわかした感じを出したいですね。」

森「クラシックに詳しい人にも、詳しくない人にも楽しんでもらえるプログラムになっているので、それぞれの音楽性や人間のキャラクターが出るようなコンサートにしたいです。」

石川「もはや意気込みしかないです、変な言い方ですけど(笑)、普段はなかなか弦楽器と共演する機会がないので、すごく楽しみです。」 


まだ都内の歩道にも固まった雪が残る中、今日も彼女たちは練習へ向かう。演奏会に向けて、相談事も尽きない。今日の議題は、トークの内容だ。


ーWebアッコルド「音楽 × 私」より 2014年2月27日掲載